小学生の頃、鼬川(いたち川)の岸に秘密基地を作った。護岸の岩と岩の隙間に子ども三人くらいが入れるとても小さなワクワクする空間に、壊れたテレビや鉄くず、野球バットに釣り道具、もちろんエッチな本も奥に隠されている。放課後、密議は基地で交わされる。捕ってはいけないいたち川の巨大な鯉をどう捕まえるかを。その秘密の空間にこそ僕らの本当の生活があった。しかし、ある日を境に川に近づくことを禁じられ三面張り工事が開始された。圧倒的な力に僕らの基地はいとも簡単に壊され、僕らの秘密の生活も木っ端みじんに壊された。悔しくてたまらなかった。ブンメイへの懐疑、ケンリョクへの懐疑、大人を睨みつけることを覚えた。

 いたち川(桂町付近)の上流に上郷がある。上郷瀬上の森と瀬上の池は谷戸と呼ばれる雄大な自然地形になっている。釣竿を抱えてチャリンコでよく通った。池の手前に大きな桑の木があって口を紫にしてはその実をほおばり桟橋でテグスを垂れた。秋には稲穂も首を垂れた。自然は豊かだと誰かから教えてもらわなくても、瀬上がすべてを教えてくれた。

 現在、この瀬上に横浜市都市計画(土地所有者は東急建設)による宅地開発がすすめられようとしている。谷戸の湿地帯を埋め立てて宅地にするというのだ。瀬上の下流にある僕らの秘密基地は37年前にあっという間に壊された。自然観を養ってくれた瀬上は僕の一部であり、僕は瀬上の一部であるような気がする。瀬上が壊されれば僕自身が壊され、あの時の懐疑心が首をもたげる。この開発を阻止できなければ、今度は瀬上の自然の恩恵を享受している今の子ども達に睨まれる番だ。急激な都市化と共同体崩壊に絶望し、本当の豊かさを求めて長野県に来たのは自分だが瀬上を思うと望郷の念やみがたし。信州から連帯のエールを送る。

内なる大審問官は天上のパンか地上のパンか、お前はどうする?と問いつづける。

 

 

 

 

 

 

 

春夏秋冬日記 2017年